
Googleの最新スマートフォン「Pixel 10」シリーズには、同社が独自に開発したカスタムチップの最新世代「Tensor G5」が採用されています。製造プロセスの刷新からAI機能の強化まで、過去最大級のアップグレードとなりました。
TSMC製3nmプロセスで大幅な性能向上
Tensor G5は、初めてTSMCの3nmプロセスを採用。これによりCPU性能は平均34%向上し、シングルスレッド・マルチスレッドの処理速度も大幅に改善しました。Webブラウジングやアプリ起動、OS描画、AI処理など、日常的な操作の応答性が向上することが期待されています。
CPU構成は、大型の高性能コア1基、中性能コア5基、省電力コア2基というバランス型。さらに新しい冷却制御の導入により、発熱を抑えつつ高クロック動作を維持できるようになっています。メモリとストレージも最新規格に対応し、LPDDR5Xによる高速メモリ帯域とUFS 4.0による高速フラッシュストレージを備えています。
TPUとGemini NanoでAI体験を刷新
AI処理を担うTPUは最大60%の性能向上を実現。加えて、Google DeepMindが開発した最新の「Gemini Nano」を搭載し、前世代比で2.6倍の速度と2倍の効率を達成しました。これにより「Pixel Screenshots」や「Recorder」などの機能が大幅に進化しています。
また、コンテキストウィンドウは12Kから32Kトークンに拡張。これにより数百件のスクリーンショットや1か月分のメールを一度に処理できるほどの文脈理解力を備えました。
モデルの効率化では、新しい「Matformerアーキテクチャ」と「Per Layer Embedding」により、限られたモバイルRAM環境下でも高精度な応答を実現しています。
20以上の新AI機能をサポート
Tensor G5はPixel 10で20種類以上の新AI機能を提供します。代表的なものとして、要点を提案してくれる「Magic Cue」、通話内容を整理し行動につなげる「Call Notes」、新アプリ「Journal」、詐欺検知機能、Gboardの「Smart Edit」などがあります。
音声翻訳では、生成AIモデルと従来の音声認識モデルを並列で動作させることで、より自然かつ高速な翻訳を実現。わずか数秒の音声から話者の声質を再現する「ワンショット音声保存」も可能になりました。プライバシー保護の観点から、音声の登録やサーバー保存は不要となっています。
映像処理とカメラ体験も進化
独自のイメージシグナルプロセッサ(ISP)も強化され、特に低照度での動画性能が大きく向上。シーンや被写体をより細かく認識し、Pixel 10では1080p・4K30fpsでの10ビット動画撮影に対応します。さらに「モーションデブラー」や「Real Tone」も改善されました。
カメラ機能では「Add Me」「Auto Best Take」、そして最大100倍の「Pro Res Zoom」をサポート。このズーム機能は約10億パラメータを持つGoogle史上最大規模のPixelカメラモデルで、アプリ内で拡散モデルを直接動作させるのは今回が初めてです。前世代のPixel 8 Pro(G3)では数万パラメータ、Pixel 9 Pro(G4)でも数百万規模だったことを考えると、進化の幅は圧倒的です。
モバイルAI体験の新たな基準に
Tensor G5はCPU・GPU・TPUを含むチップ全体で統合的に機能し、Pixel 10の幅広い機能を支えています。リアルタイム翻訳や高度なカメラ処理など、従来ではクラウド頼みだった処理を端末上で完結できる点は大きな進化といえるでしょう。Googleは、このTensor G5を通じて「スマホにおけるAI体験の新しい基準」を提示したといえそうです。