Android Runtimeが進化、コード品質そのままにコンパイル時間を18%短縮

Android Runtime(ART)チームは、コード品質やメモリ使用量を一切犠牲にすることなく、コンパイル時間を18%短縮することに成功しました。Android Developers Blogが公開した記事によると、これは2025年を通じて進められてきた最適化プロジェクトの成果で、Android全体の快適性を底上げする重要な改善となっています。

なぜコンパイル速度の改善が重要なのか

ARTにおいてコンパイル速度は非常に重要な要素です。特にJITコンパイルでは、処理が速くなるほど最適化が早期に有効化され、アプリの動作やシステム全体のレスポンス向上につながります。

また、JITやAOTを問わず、コンパイル処理そのものが軽くなることで、CPUやメモリの消費が抑えられ、バッテリー持続時間や端末の発熱対策にも好影響を与えます。これはエントリークラスの端末にとっても大きなメリットです。

Android 12以降の端末にも順次反映

今回の最適化の一部は、2025年6月のAndroidアップデートですでに提供されています。残りの改善点についても、年末リリースのAndroidアップデートで展開される予定です。

さらに、Android 12以降を搭載する端末であれば、メインラインアップデートを通じて、これらの改善を利用できるとされています。

コンパイラを速くする難しさ

コンパイラの最適化は、単純に速くすればよいというものではありません。処理速度を上げる代わりに、メモリ消費が増えたり、生成されるコードの品質が下がったりしては意味がありません。

ARTチームが掲げた目標は明確で、「コンパイルを速くするが、メモリ使用量は増やさず、生成されるコードの品質も落とさない」という非常に高いハードルでした。その代わりに費やしたのが、徹底した検証と開発工数です。

プロファイリングによる改善ポイントの特定

最適化にあたっては、まず計測が欠かせません。ARTチームは、同一端末での測定やサーマルスロットリングを避けるといった条件を整えたうえで、pprofなどのツールを使い、コンパイル処理の詳細なプロファイルを取得しました。

その結果、特定のメソッドやフェーズが想定以上に時間を消費していることが判明し、無駄な処理を省略できる箇所を一つずつ洗い出していきました。

無駄な処理をしないという発想

たとえば、ある最適化フェーズでは、条件次第で必ず失敗すると分かっている処理にもかかわらず、毎回すべてのノードを走査していました。ここでは「高速化する」のではなく、「そもそも処理しない」判断を導入することで、大幅な時間短縮を実現しています。

このように、アルゴリズム改善や並列化だけでなく、処理自体を省略する判断が多くの場面で効果を発揮しました。

具体的な最適化の例

ARTチームは、さまざまな手法を組み合わせて最適化を進めています。代表的な例としては以下のようなものがあります。

  • 線形探索をやめ、定数時間で参照できるデータ構造へ変更
  • 実際の用途に合わなくなったデータ構造の見直し
  • 不要なコピーを防ぐための参照渡しの徹底
  • 計算結果のキャッシュによる処理削減
  • インライン展開の判定を事前段階に移し、無駄な計算を回避
  • BitVectorの軽量化や64ビット環境向け最適化

これらの改善を積み重ねることで、個々では数%に満たない効果でも、全体として大きなコンパイル時間短縮につながっています。

すべての改善が成功するわけではない

記事では、最適化の試みがすべて成功するわけではない点にも触れられています。時間をかけて調査しても、効果が小さかったり、別の問題を引き起こしたりして、見送られる改善案も数多くあったとのことです。

そのため、最小限の試作で効果を見積もり、リスクとリターンを慎重に判断する姿勢が重要だとしています。

Android全体の体験向上へ

今回のARTの改善により、Androidはよりスムーズで効率的なプラットフォームへと進化しました。コンパイル時間の短縮は、アプリの体感速度だけでなく、バッテリー持ちや端末温度の安定にも寄与します。

これらの最適化は、2025年末のAndroidアップデート、そしてAndroid 12以降のメインラインアップデートを通じて順次提供されます。ARTチームの地道な取り組みは、Androidの基盤を支える重要な進化として、今後も注目されそうです。

ソース

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