
AI業界の熾烈な人材争奪戦の中、グーグルが驚くような手段を講じていることが報じられています。同社のAI部門であるDeepMindの一部社員が、実質的に業務を課されることなく報酬を受け取っているというのです。
AI部門の社員が「何もしていない」のに給料が支払われるワケ
この情報は、米メディア「Business Insider」の報道によるものです。報道によれば、グーグルは優秀なAI人材をライバル企業に引き抜かれることを避けるため、一部のDeepMind社員に対し、特定の業務を与えることなく給与を支払い続けているとのことです。
単なる社内待機というレベルではなく、いわば「保持のための給料」という位置づけ。OpenAIやマイクロソフトなど、世界中のテック大手がAI人材の確保にしのぎを削る中で、こうした対応は今後さらに広がる可能性もあります。
英国では「競業避止義務」が重荷に
特に問題となっているのが、DeepMindの本拠地でもあるロンドンでの事例です。イギリスでは、社員がライバル企業に転職することを制限する「競業避止義務(ノンコンピート条項)」が法的に有効とされており、これが社員に重くのしかかっているようです。
2024年にアメリカでは連邦取引委員会(FTC)がほとんどのノンコンピート契約を無効としましたが、イギリスでは依然として有効であり、DeepMindの一部社員たちは「抜け出せない」と苦しんでいると伝えられています。
実際、マイクロソフトのAI部門副社長は「DeepMindの社員から“絶望的な気持ちで連絡が来る”」と明かしており、その発言が注目を集めました。
テック業界のAI人材争奪戦は限界に近づいている?
この事例は、AI分野での人材価値がどれだけ高騰しているかを物語っています。グーグルは「とにかく手放したくない」人材を、業務がなくとも社内にとどめておくため、報酬を支払い続けるという極端な手法を取っています。
現時点で同様の事例が他社から報告されているわけではありませんが、業界全体として同様の動きがあっても不思議ではありません。AIは今や企業の中核技術であり、「優秀な人材を確保すること=将来への投資」とみなされています。
静かなる“ゼロタスク社員”の時代
表向きには何もしていないが、実際には「会社のためにいるだけで価値がある」──そんな社員が、今後もAI業界を中心に増えていくかもしれません。
グーグルからの公式コメントはまだ発表されていませんが、この件が示すのは、単なる企業戦略の話にとどまらず、テクノロジーと労働の関係性が根本から変わりつつあるということです。誰がどこで、どのように「価値を生む」のか。その定義は、これから大きく変わっていくかもしれません。