
2025年6月、EUはスマートフォンの環境性能を高めるための「エコデザイン規則」を導入しました。これにより、スマホには新たなエコラベルが導入され、落下耐性やバッテリー寿命、修理部品の提供などが義務化されています。そして中でも大きな注目を集めたのが、端末の寿命に直結する「OSアップデート期間」に関する規定です。
表向きは「最低5年のアップデート提供」
EUの公式サイトでは、以下のような説明が掲載されています。
「製品モデルの最終出荷日から最低5年間、OSアップグレードを提供すること」
この一文だけを見ると、スマホメーカーは 最低5年間のOSアップデート提供が義務 のように見えます。そのため実際に、ここ1〜2年で多くのメーカーがアップデート期間を延長し、6〜7年保証をうたう機種も増加しました。
SamsungやGoogleなどは世界的に長期サポートをアピールしており、この動きは消費者にとって歓迎すべき流れです。
ところが、細かく読むと義務ではない?
この規則、全文を読むためにEUの法律文書「附属書2(2023/1670)」を参照すると、決定的な文言が見つかります。
「もし」(if)メーカーがアップデートを提供する場合、それを無償にしなければならない。
つまり法律は “アップデートを提供する義務”までは定めていない のです。
提供するかどうかはメーカーの自由であり、義務化したように見えるのは「無償化」だけ、という解釈が可能になります。
この穴に目を付けたのが、Motorolaの弁護士チームです。同社は「アップデート期間を5年以上提供する義務はない」と判断し、最新モデルでも 約4年程度の保証にとどめている とされています。
結果として“実質無意味な規制”?
解釈を狭めれば、この規則は 「無料でアップデートしてください(ただし提供する場合に限る)」 という、制度としてほとんど意味のない内容になってしまいます。もともと有料だったメーカーは存在しないため、これでは利用者保護になりません。
とはいえ、EUにより市場の空気が変わったことは事実です。メーカーが競争的にアップデート保証を長期化し始めており、業界のトレンドとしてはプラスに働いています。
最終的に重要なのは「メーカーの姿勢」
今回のエコデザイン規則により、更新期間が延ばされたように見えるスマートフォン市場ですが、実際の強制力は限定的で、メーカーごとの解釈に大きく左右されるのが現状です。法律が必ずしもユーザーの利になるとは限らず、 「購入する機種がどれだけアップデート保証しているか」 を確認する重要性は変わっていません。
今後も規制の明確化が求められる一方で、メーカー同士の長期サポート競争が続くかどうかが、スマホの寿命を左右していくことになりそうです。

