
欧州連合(EU)の欧州委員会(European Commission)は12月5日、ソーシャルネットワーク「X(旧Twitter)」に対し、デジタルサービス法(DSA)違反があったとして1億2,000万ユーロ(約1億4,000万ドル=約217億円)の制裁金を科すと発表しました。2024年から続いていた調査に対し、正式な結論が下された形です。
「誰でも買えるのに“認証済み”の雰囲気」ブルーバッジの設計を問題視
今回の制裁で特に強調されたのが、いわゆる“青いチェックマーク”、青バッジの扱いです。
欧州委員会は、バッジのデザインが「本人確認済みのアカウントである」という印象をユーザーに与える一方、実際には料金を支払えば誰でも取得でき、X側がアカウントの真正性を実質的に確認していないと指摘しました。
DSAでは、オンラインサービスに対し「誤解を招くデザインの禁止」が義務付けられており、Xはこれに抵触していると判断されています。
広告ライブラリにも不備 「透明性が担保されていない」
制裁の対象は青バッジだけではありません。
EUは、広告の内容や支払い元企業などを確認できる広告リポジトリ(広告ライブラリ)にも重大な問題があるとしています。
EUが公開した資料では以下の点が指摘されています。
- 広告の内容・テーマ・出稿元の法人情報が欠落
- データ処理に過度な遅延が発生するなど、明らかなアクセス障壁がある
- 情報操作や詐欺広告の監視に必要な透明性が担保されていない
研究者や市民団体が広告の健全性をチェックする上で、透明性の高い広告ライブラリは不可欠とされており、Xはその要件を満たしていないと結論づけられました。
研究者へのデータ提供も不十分 スクレイピングも事実上禁止
さらにXは、研究者への公開データ提供というDSAの義務にも違反しているとされています。
本来、EUの規定では、研究目的であれば公共データへのアクセスが可能であるべきとされていますが、Xは以下のような制限を課していました。
- 利用規約により研究者によるスクレイピング(自動取得)を禁止
- アクセス請求の手続きが不透明で、不要な障壁が設定されている
- 結果としてEU内でのリスク調査(偽情報、選挙干渉など)を阻害している
欧州委員会は、これらの措置が研究活動を「実質的に妨害している」と強い表現で批判しています。
Xに“改善計画”の提出を要求 期限は60日と90日
EUはXに対し、以下のスケジュールで改善策を提出するよう求めています。
- ブルーバッジに関する是正案:60営業日以内
- 広告ライブラリおよび研究者へのデータ提供:90日以内
提出後は、まずEUの「デジタルサービス委員会」が1か月以内に意見をまとめ、その後さらに1か月以内に最終判断が下されます。これにより、Xに対して「合理的な実装期間」が正式に提示される予定です。
制裁の背景にある“透明性”の要求
今回の判断から見えてくるのは、EUがオンラインプラットフォームに対し、これまで以上に強い透明性を求めているという点です。
誤解を招くデザインの排除、広告の出稿状況の公開、研究者による監視の確保――いずれもDSAが掲げる「安全で透明なデジタル空間」の中核となる項目です。
XはEU最大規模のSNSのひとつであり、その運営姿勢が欧州全体の情報環境に大きな影響を与えることは間違いありません。今回の制裁を受け、どこまで改善が進むのか注目が集まりそうです。

