
スマートフォンや電気自動車の次世代バッテリーとして期待されている全固体電池の実用化に向け、大きな前進となる研究結果が発表されました。これまで全固体電池の普及を阻んできた大きな問題の一つだった、充電時に発生する「デンドライト」が固体電解質を破壊する仕組みを、研究チームが詳しく解明したということです。
なぜ全固体電池は普及していないのか
全固体電池は、現在広く使われているリチウムイオン電池とは異なり、電極の間に液体ではなく固体の電解質を使用します。液漏れや発火のリスクを抑えながら、より高いエネルギー密度や高速充電を実現できる可能性があることから、スマートフォンをはじめとするモバイル機器や電気自動車向けの次世代電池として注目されています。
ところが、その実用化を長年妨げてきたのが、充電中に発生するデンドライトです。

デンドライトは、リチウム金属の負極から成長する樹状の結晶構造です。成長したデンドライトが固体電解質を突き破って反対側まで到達すると、電池内部で短絡が発生し、最悪の場合はバッテリーそのものが機能しなくなります。
特に謎だったのは、非常に柔らかいリチウム金属から生じるデンドライトが、硬くて割れにくいはずのセラミック製固体電解質を、どのようにして突き破るのかという点でした。
硬いセラミックを破壊する仕組みを解明
今回この問題に取り組んだのは、ドイツのマックス・プランク持続可能材料研究所(MPI-SusMat)の研究チームです。研究成果は科学誌Natureに掲載されました。
研究チームは、酸素や水分、空気などによる影響をできるだけ排除するため、真空環境かつ非常に低い温度で充電中の全固体電池を詳しく観察しました。

その結果、柔らかいリチウムのデンドライトが固体電解質を破壊する過程を特定したとしています。
ポイントとなるのは、デンドライト内部に生じる圧力です。リチウムが成長することで内部に大きな圧力がかかり、その力によって硬いセラミック製の固体電解質に亀裂が発生します。そこからデンドライトがさらに進展することで、最終的に電池内部の短絡につながるという仕組みです。
研究チームは、シミュレーションや電子後方散乱回折など複数の手法を使って結果を検証しており、それぞれの分析結果が一致したと説明しています。
デンドライトを防ぐ方法も検討へ
原因が明確になったことで、今後はデンドライトによる破壊をどう防ぐかという研究にもつながります。
研究チームが検討している方法の一つが、セラミック製の固体電解質そのものを強化することです。より割れにくい材料にすることで、デンドライトが発生しても電解質を突き破るのを防ぐ狙いがあります。

もう一つのアプローチとして、リチウム電極の表面を保護層で覆う方法も考えられています。デンドライトの発生そのものを抑えることで、固体電解質への亀裂の発生を防ぐという考え方です。
今回の研究によって問題が完全に解決したわけではありませんが、これまで現象として確認されながら詳しい仕組みが分かっていなかった問題の核心に迫ったことは、全固体電池の実用化に向けて重要な一歩といえます。
スマートフォンの電池が数日持つ未来に近づく?
全固体電池は、スマートフォンのバッテリー性能を大きく変える可能性も秘めています。エネルギー密度を高められれば、現在と同じサイズのバッテリーでもより長時間使用できるようになり、1回の充電で数日間使えるスマートフォンの実現につながる可能性があります。
また、全固体電池の実用化を目指している企業の一つがSamsungです。Samsung SDIは、全固体電池を2027年末までに量産する計画を明らかにしています。
もちろん、今回の研究結果だけで全固体電池がすぐにスマートフォンへ搭載されるわけではありません。量産時のコストや耐久性、充電速度、安全性など、解決すべき課題はまだ残されています。
それでも、全固体電池がなぜ故障するのかという根本的なメカニズムが明らかになったことで、次世代バッテリーの実用化に向けた研究は一段階前進したといえそうです。スマートフォンのバッテリーを毎日のように充電する必要がなくなる未来に向けて、今回の発見が重要な転機となるかもしれません。


