
スマートフォンのバッテリー技術を大きく変えると期待されている「全固体電池」。高容量化や超高速充電を実現する次世代技術として注目を集めていますが、その夢に冷や水を浴びせる出来事が起きました。
今年のCESで画期的な全固体電池を発表し話題となったフィンランドのスタートアップ「Donut Lab」に対し、実際には従来型のリチウムイオン電池を全固体電池として宣伝していた可能性が浮上しています。
CESで注目を集めた「夢のバッテリー」
Donut Labは2026年1月のCESで、エネルギー密度400Wh/kgを実現した全固体電池を発表しました。
同社によれば、このバッテリーは10分未満で充電可能なうえ、量産体制も整っており、既存のリチウムイオン電池と同程度のコストで製造できるとしていました。
もし事実であれば、スマートフォンやEV業界に革命をもたらす技術と言える内容です。

さらに同社は電動バイクメーカーとの提携も発表し、新型バッテリーを搭載した製品の市場投入計画まで明らかにしていました。
独立調査で疑惑が浮上
ところが、その後バッテリー研究者や業界関係者の間で疑問の声が広がります。
Donut Labはフィンランドの研究機関VTTによる試験結果を公開していましたが、その試験内容からは同社が主張する400Wh/kgというエネルギー密度や超長寿命性能を証明できないとの指摘が出ていました。
そして今回、バッテリー研究者として活動するZiroth氏が20名以上の専門家と協力し、大規模な調査結果を公表。公開データや試験結果、契約文書などを分析した結果、Donut Labの電池は一般的なリチウムイオン電池である可能性が高いと結論付けています。
電圧や膨張パターンがリチウムイオン電池と一致
専門家らが注目したのは、充放電時の挙動です。

公開されている試験データでは、電池の動作電圧が3.7~3.8V付近で推移しており、これは高ニッケル系リチウムイオン電池によく見られる特性と一致しているといいます。
さらに決定的な証拠とされるのが、充電時のセル膨張パターンです。
リチウムイオン電池は充電中に内部のイオンが移動することでわずかに膨張しますが、その変化には特有のパターンがあります。調査チームによると、Donut Labの電池データにはリチウムイオン電池特有の「折れ曲がり」が確認されており、全固体電池ではなく従来型電池の特徴を示しているとのことです。
また、公開された試験結果から算出した実際のエネルギー密度は約298Wh/kgとされており、これは高性能なリチウムイオン電池としては優秀な数値ですが、同社が主張した400Wh/kgには大きく届いていません。
投資家から2500万ドル以上を調達
今回の問題は単なる技術的な誤認では済まない可能性があります。
調査によれば、Donut Labはこれまでに1300人以上の個人投資家から総額2500万ドル以上を調達していたとされています。
出資額は1人あたり3000ドルから2万3000ドル程度で、多くが一般投資家だったと報じられています。
また、同社と提携していた電動バイクメーカーVergeもこの発表によって企業価値が大幅に上昇したとされており、問題の影響は広範囲に及ぶ可能性があります。
現在、フィンランド当局がこの件について調査を進めていると報じられています。
全固体電池の未来はまだ終わっていない
今回の一件は全固体電池への期待に大きな打撃を与えたことは間違いありません。
しかし、だからといって全固体電池そのものが実現不可能になったわけではありません。
実際、世界最大級のバッテリーメーカーであるCATLは、エネルギー密度500Wh/kg級の全固体電池試作品をすでに発表しており、2027年の量産化を目指していることを明らかにしています。
Donut Labとの大きな違いは、技術データや研究成果を継続的に公開している点にあります。
スマートフォン業界では近年、シリコンカーボン電池の普及によってバッテリー容量が急速に増加していますが、全固体電池はその先にある本命技術とも言われています。
今回の騒動は残念なニュースではあるものの、数日間充電不要なスマートフォンや超高速充電を実現する未来そのものが消えたわけではありません。むしろ今後は、実際の技術力を持つ企業による本格的な開発競争がさらに加速していくことになりそうです。

