
TeslaやSpaceXを率いるイーロン・マスク氏が、私たちの暮らす世界がコンピューター上のシミュレーションである可能性について、50%程度との見方を示しました。また、AIの安全性を高めるため、開発企業同士がモデルの公開前に検証し合う仕組みを提案する一方、OpenAIのサム・アルトマンCEOについては厳しい言葉で批判しています。
マスク氏は、伝記作家のウォルター・アイザックソン氏が出演するポッドキャスト番組「The Builders」で、人生観やAIの安全性、AI業界の競争などについて語りました。
世界がシミュレーションなら、退屈な世界は打ち切られる?
マスク氏は、いわゆるシミュレーション仮説について、もし私たちの世界が何らかのシミュレーション上に存在するのなら、退屈なシミュレーションは途中で終了させられるのではないか、という考えを披露しました。
そのうえで、私たちが今も存在しているということは、現在のシミュレーションが興味深いものだからかもしれないと説明し、人生において重要なのは「退屈な人間にならないこと」だと語っています。
また、以前、物理学者とコンピューター科学者と食事をした際、シミュレーション仮説が正しい確率について尋ねたところ、物理学者は0%、コンピューター科学者は100%と、それぞれ正反対の回答をしたといいます。そこでマスク氏は、両者の中間を取って50%程度と考えるのがよいのかもしれないと述べました。
ただし、これは科学的な計算に基づく確率を提示したものではなく、本人の考えをユーモアを交えて語ったものです。
AIの公開前に競合企業同士で安全性を検証すべき
AIの安全性について、マスク氏は米国の主要なAI開発企業が定期的に協議し、新しいモデルを一般公開する前に、競合他社がテストできる仕組みを設けるべきだと提案しました。
具体的には、モデルの公開前に競合企業へアクセスを認め、危険な使い方ができないか、重大な問題が潜んでいないかを確認してもらうという考えです。
例えば、あるモデルを使って核兵器の製造に関する危険な支援が可能だと判明した場合、公開前に問題を修正できる可能性があります。競合企業が互いのモデルを検証することで、各社が自社の問題を見落としたまま公開するリスクを減らせるというわけです。
AI開発競争が激しくなるなか、企業間の連携によって安全性を確保しようとする提案といえます。一方、競合企業に開発中のモデルを公開するには、機密情報の管理や検証範囲、責任の所在など、具体的な運用面の課題もあります。
アルトマン氏には不信感、Anthropicの社員は高く評価
もっとも、マスク氏がAI業界全体との協調に前向きというわけではありません。
アイザックソン氏から、アルトマン氏と協力して企業間の検証体制を整えることはできないかと尋ねられると、マスク氏は同氏について、信じられないほど不誠実だという趣旨の発言をしました。
マスク氏とアルトマン氏の間には、OpenAIの経営方針や組織のあり方などを巡る対立があり、今回の発言も両者の関係が依然として険しいことをうかがわせます。
一方、AI開発企業Anthropicについては、好意的な評価を示しました。マスク氏は、同社の関係者と会った際、自分なりの「邪悪さを見抜くセンサー」で相手を見極めようとしたものの、出会った人々は皆、親切で良心的だったと振り返っています。
もちろん、これはマスク氏個人の印象にすぎず、Anthropicの組織全体の姿勢や安全性を客観的に評価するものではありません。また、同社を高く評価する一方でOpenAIを強く批判している点には、マスク氏自身の立場や両社との関係も影響している可能性があります。
AIによる経済効果は年間30兆ドル規模との見方
マスク氏はさらに、デジタル超知能の普及によって、モノやサービスの生産量が20~30%増加する可能性があるとの見方を示しました。その経済効果については、年間約30兆ドルに相当するとの試算を語っています。
ただし、これはマスク氏が示した将来的な見通しであり、実現が確実な予測ではありません。実際の経済効果は、AIの能力がどこまで向上するかだけでなく、企業への導入速度や社会制度、雇用への影響など、さまざまな要因によって左右されます。
今回の発言では、シミュレーション仮説に関する独特の人生観から、AIの安全対策や業界内の対立、将来の経済成長まで、マスク氏の幅広い考えが語られました。特に、AI企業同士がモデルを公開前に検証するという提案は、安全性と開発競争をどう両立させるかという、AI業界が直面する課題にもつながるものです。


